大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成2年(ネ)566号 判決 1992年1月28日

控訴人

本田冷蔵株式会社

右代表者代表取締役

本田龍馬

右訴訟代理人弁護士

加島宏

被控訴人

常深省悟

武内則樹

松岡武美

右訴訟代理人弁護士

藤田和也

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人らは控訴人に対し、各自一一〇〇万円及びこれに対する昭和六二年一二月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを一〇分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの各負担とする。

この判決は第二項にかぎり仮に執行することができる。

事実

一  申立て

1  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人らは控訴人に対し、各自一一二〇万円及びこれに対する昭和六二年一二月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人常深及び同松岡

本件控訴を棄却する。

二  主張及び証拠

当事者双方の主張は原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

証拠関係<省略>。

理由

一<書証番号略>、原審及び当審証人土井文代の証言、原審及び当審における控訴人代表者及び被控訴人松岡武美の各尋問結果、原審における被控訴人常深省悟の尋問結果によれば次のとおり認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

1  控訴人は冷凍、冷蔵貨物の保管等を業とする株式会社であるが、昭和五七年ころには複数の金融機関に二五億円程度の負債を抱えるにいたり、昭和六一年ころには負債総額は三三億円を超え、その経理を複数の金融機関が管理する状態となっていた。控訴人代表者本田龍馬は、右債務を金利の低い融資に借り替えたいと考え、知人らに折りあるごとに働きかけ、被控訴人松岡にもその相談を持ちかけた。被控訴人松岡と控訴人代表者とは選挙運動を通じて知り合い、同被控訴人経営の株式会社の監査役に控訴人代表者が就任し、同被控訴人が控訴人の顧問となり、同被控訴人において控訴人の融資の手助けをしたりするなどの付き合いをしていたのであるが、同被控訴人は、政治活動を通じて被控訴人武内と知り合い、同被控訴人が関係する有力政治家に働きかけて控訴人代表者の要請に答えようと考え、昭和六二年夏ころにはその旨を控訴人代表者に伝え、その後、被控訴人武内とも連絡をとっていたが、同年一一月二〇日ころ神有開発株式会社の事務所において、同被控訴人に控訴人代表者を引き合わせた。被控訴人常深は同年三月ころまで兵庫相互銀行に勤務していたもので、被控訴人武内とも親しく、同被控訴人が経営していた休眠会社の有限会社恵方屋を譲り受けてその代表取締役となったりしていたが、同年一一月二〇日ころの被控訴人武内と控訴人代表者との会合に同席した。

2  右会合において、控訴人代表者は、政府系の金融機関に三五億円を借り替えたいとの話をし、被控訴人常深において、右融資を受けるためにはその条件を作出するために資産の鑑定が必要であり、その費用は同被控訴人の銀行在職中の経験から資産一億円について約三〇万円が必要であり、三五億円であれば一〇〇〇万円以上は必要であるなどと説明した。控訴人代表者はこれを了解し、融資が実現したときは、融資額の五パーセントを報酬として支払う旨の約束をした。

3  そして、被控訴人常深は、右融資を受ける準備として、控訴人の経営内容を調査し、融資のために必要な事務的処理を担当するとして、被控訴人松岡が控訴人から受領していた控訴人の決算書類などを受け取り、また、同月二〇日ころには被控訴人松岡とともに控訴人の姫路工場を訪れ、更に、同年一二月三日、控訴人の太子工場を訪ね、控訴人代表者に鑑定費用のことなど融資に関する話をしたりして打合せをしていた。ところで、被控訴人松岡は、同日、被控訴人武内から、電話で、その経営する神有開発株式会社の支払のために一〇〇〇万円が必要であるから、これを控訴人から借りてくれと頼まれたため、控訴人の太子工場に赴き、既に前記所用で同工場を訪れていた被控訴人常深を呼び出し、被控訴人武内からの電話について伝え、控訴人代表者に被控訴人常深から頼むように求め、同被控訴人から控訴人代表者に対し鑑定費用として一〇〇〇万円を出すように要請した。そこで、控訴人代表者は右金員は鑑定費用として使用されるものと理解してその出捐を承諾し、会計担当の土井文代に銀行預金から一〇〇〇万円の支払をするように指示したが、その際、同女がその銀行預金は昭和六三年一月末の支払のために用意してあるものであると指摘したので、控訴人代表者は三五億円の融資が同日までに実現できない場合を心配して見返りの手形の提供を求め、同被控訴人もこれを承諾した。そこで、控訴人は、同日、一〇〇〇万円を被控訴人常深の指示に従って恵方屋の銀行口座に振り込み、同被控訴人は、右金員を被控訴人武内に交付し、その数日後、同被控訴人から神有開発株式会社の裏書のある、額面を一〇〇〇万円、期日を昭和六三年一月二〇日とする約束手形一通を受け取り、これを控訴人に交付した。

4  被控訴人常深は、融資を受けるためには神戸市に進出する必要があるとして、これを控訴人代表者に勧め、控訴人は、これに同意して、神戸市内の神戸貿易センタービル一室の賃貸借契約を予約するなどした。また、被控訴人常深は、昭和六三年一月下旬ころ、京阪神総合信用株式会社に控訴人の資産についての鑑定を依頼し、被控訴人武内は代議士秘書高田静男と連絡をとり、被控訴人ら三名及び控訴人代表者は、同年二月一三、一四日に伊豆長岡の被控訴人武内の別荘において、同代議士秘書と会い、被控訴人常深において資料説明したり、控訴人代表者において融資実現への助力を依頼をした。

5  ところで、控訴人の従業員である土井文代は、被控訴人らに不審を抱き、前記一〇〇〇万円を支出した際には、鑑定費用が高いと異論を述べ、これに対して被控訴人松岡が融資を実現するための虚偽の鑑定書を作成する費用だから高くなると答えたりしていたが、同年二月一九日ころ、京阪神総合信用株式会社作成の鑑定書を被控訴人松岡が持参したことから鑑定依頼先を知り、同社に連絡して同年三月八日ころその作成費用の請求書の送付を受けた。これにより、控訴人代表者は、鑑定費用が一〇〇〇万円でなく、一〇一万八〇〇〇円であったことを知り、被控訴人らに対する信頼感を失い、同年三月下旬に至って右融資を断念し、神戸市に計画していたビルの賃借も中止し、右融資の件は沙汰止みとなった。

6  被控訴人武内が控訴人に差し入れた約束手形は、支払期日に支払がされず、被控訴人常深はこれに代わる恵方屋が他から取得した同額の約束手形を控訴人に差し入れ、更にこの手形も恵方屋振出の同年四月二〇日期日の二〇〇万円、同年五月六日期日の三〇〇万円、同月一〇日期日の五〇〇万円の三通の約束手形に差し替えられたが、いずれも不渡りとなった。

なお、原審における被控訴人常深本人は、控訴人から受領した一〇〇〇万円は融資斡旋の着手金であるとか、成功報酬の前渡金であるとか述べ、また、原審及び当審における被控訴人松岡本人は、右金員は被控訴人武内が借り受けたものであるとか、報酬の前払いであるとか述べるが、その各供述は右被控訴人らの間でも矛盾しているうえ、原審及び当審証人土井文代の証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果に照らしいずれも採用することができない。

二控訴人は、被控訴人武内が、融資斡旋話にかこつけて控訴人から金員を引き出すことを計画し、鑑定費用名下に一〇〇〇万円を受け取り、これを詐取したと主張するものであるところ、右事実を尋問事項として被控訴人武内本人の尋問を求めたので、当裁判所は、同被控訴人本人の尋問を実施するため平成三年六月五日、同年八月二一日の各期日に適式の呼出をしたが、同被控訴人は正当の事由なく(同被控訴人は、当庁書記官宛の文書で出頭をためらう事由を記述しているが、右事由はもとより正当の事由に当たらない。)呼出に応じなかった。以上の事実は記録上明らかである。そこで、当裁判所は、被控訴人武内の関係で、民事訴訟法三三八条により右尋問事項に関する控訴人の主張、すなわち被控訴人武内が、融資斡旋話にかこつけて控訴人から金員を引き出すことを計画し、鑑定費用名下に一〇〇〇万円を受け取り、これを詐取したとの事実を真実と認める。

三被控訴人常深及び同松岡の関係では、同被控訴人らが、当初から控訴人から金員を詐取しようと計画し、その手段として昭和六二年一二月三日に鑑定費用名下に一〇〇〇万円を恵方屋の口座に送金させたとまでは認めることができないが、被控訴人常深は、右一〇〇〇万円が鑑定費用でなく、被控訴人武内に運転資金として渡すつもりでいながら、控訴人代表者にこれを鑑定費用として使用する旨述べて、同代表者をそのように誤信させ、一〇〇〇万円を送金させたものであり、これは詐取にあたるといわざるをえない。控訴人代表者に対して鑑定費用として一〇〇〇万円を出すように述べたのは被控訴人常深であり、被控訴人松岡ではないが、同被控訴人が被控訴人武内からの伝言を被控訴人常深に伝えたもので、同被控訴人が控訴人代表者に右出捐の要請をするのに同席し、右金員が被控訴人武内に渡されることを知りながら被控訴人常深の話を訂正したり、否定しなかったのであるから、被控訴人松岡も被控訴人常深の控訴人代表者に対する欺罔行為に加担したものということができる。そして、被控訴人らが、融資実現の際には控訴人から一億五〇〇〇万円の報酬を受領する約束になっていたとしても、これが右欺罔行為の違法性を阻却させるものではない。

四以上によれば、被控訴人らは、共同不法行為者として、控訴人が出捐した一〇〇〇万円について賠償すべき義務がある。控訴人は、弁護士費用として一二〇万円を請求するが、本件事案の内容、審理の経過等諸般の事情を考慮すると、控訴人が被控訴人らに請求しうる弁護士費用の額は一〇〇万円を限度とすべきである。

五以上によれば、控訴人の本訴請求は、被控訴人ら各自に対し、共同不法行為による損害金一一〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和六二年一二月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却すべきであるところ、これと結論を異にする原判決を右のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条、九三条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官柳澤千昭 裁判官東孝行 裁判官松本哲泓)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例